大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)144号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

審決の理由(原告にも異議がない被告の趣旨釈明を含む。以下同じ。)中に示された本願発明の要旨、第一引用例及び第二引用例の各記載内容、本願発明と第二引用例とを対比した場合における両者の一致点及び相違点が、いずれもそのとおりであることは、原告の自認するところである。そこで、右相違点に対する判断中原告が誤つているとする点について順次検討する。

1 コンベヤベルト(無端帯)について

(一) 成立に争いのない乙第二号証の一ないし三(機械工学便覧)中には、コンベヤベルトの材料に関し、網状のものの例示としては、金網のみが記載されていることに徴すると、一般にベルトコンベヤにおけるベルト(無端帯)に網状のものを使用する場合には、金網が用いられることは、本願発明の出願前に周知の技術であつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(二) 次に、冷凍室内で使用されるベルトコンベヤにおけるベルト(無端帯)の材料についてみるに、成立に争いのない乙第一号証の一、二、(第一引用例、なお甲第二号証は、乙第一号証の二に同じ。)によれば、第一引用例には、アイスクリームプラントにおけるコンベヤに関する説明として、「アイスクリームの硬化室への搬入、硬化室からの搬出に網状ベルトを用いることは、熱容量が小さく、また生蒸気による清掃が可能なので理想的である。」との記載があることが認められ、このことは、前記プラントの冷凍室の内外にわたつて網状のコンベヤベルトが張り渡され、右コンベヤベルトに載置した被冷凍物が、コンベヤの稼動に伴なつて冷凍室内に搬出入される技術を説明したものと解される。そして、同号証中の他の個所の説明と写真には、金網のベルトコンベヤを用いて、キヤンデーを冷却するため移送する装置の解説があるところ、同号証の説明においては、いずれのコンベヤベルトについても同一の呼び名を用いており、また、いずれのコンベヤも載置運搬物を冷却、冷凍する設備の一部に使用されていることが認められ、これと前記のとおり熱容量が小さく生蒸気で清掃が可能であるとの記載などを併せ考えると、アイスクリームの冷凍設備に用いられる網状ベルトも、キヤンデー移送用のそれと同一構造、同一材料よりなるものと解するのが相当である。そうすると、第一引用例には、冷凍室内で稼動するベルトコンベヤにおいて金網無端帯を使用する技術の記載があるものというべきである。

(三) 以上に述べたところからすれば、網状ベルトに関する審決の判断には、誤りがないというべきであり、この点に関する原告の主張は採用できない。

(四) なお、原告は、第二引用例は金網を使用しないものであつて、右引用例からは金網の使用に想到することができない旨主張する。しかしながら、第二引用例のものが、仮に原告主張のとおり金網無端帯を使用しないものであるとしても、それは網状無端帯を使用するものであり、かつ、一般に金網無端帯は網状無端帯の一種に属することが明らかであるのみならず、第一引用例には、前述のとおり、冷凍室内で稼動するベルトコンベヤにおいて金網無端帯を使用する技術が示されているのであるから、金網無端帯を用いても目的を達しうる場合には、必要に応じこれを用い本願発明の構成とすることは、第一引用例及び第二引用例から当業者の容易にしうることというべきである。この点についての原告の主張は失当というほかはない。

2 冷却作用、冷媒について

本願発明は、箇体食品を載置運搬する金網無端帯の運行中、その一側から反対側に冷媒気体を吹き抜けさせる急速冷凍装置に係るものであるが、その冷媒気体は、成立に争いのない甲第一号証(本願発明の特許公報)によれば、本願発明の実施例として示されている事項、すなわち、「12、13は、冷凍用空気の取入口、取出口である。」、「積台7から金網帯上に載置された箇体は、入口8から凍結室2に入り、冷却空気によつて凍結されて、出口9から出て受台7に入る。」とあることからも明らかなとおり、低温の空気ないし冷却気体を指称するものであることが認められる。そして、冷却気体の温度をどのように設定するかは、加工物を冷却するに必要な温度との相対的関係により定まり、冷却作業自体の問題ではない。

争いのない本願発明の要旨によると、本願発明は、凍結「室内の金網面に対する一側から冷媒気体を送り、金網面を吹き抜けて反対側に出さしめ」ることを要件としているが、必ずしも高圧雰囲気の冷媒気体内で被冷却物を凍結することを要件としていない。そしてこの場合、冷媒気体を金網無端帯の一側に送り込むことにより同気体をして金網面を吹き抜けさせるか、金網無端帯の他側から冷媒気体を吸引することにより、無端帯の一側にある同気体を無端帯の網目を通して吹き通させるかは、単に冷媒気体の移送手段の差異に過ぎず、両者に冷凍作用の質的差異があるものとは考えられない。すなわち、成立に争いのない甲第一号証、第三号証によれば、第二引用例のものは、網状無端帯の他側に閉塞室が設けられていて右閉塞室にある冷却用の気体(空気)を吸引排出することにより網状無端帯の網目を通して他側から同気体を室内に移送させるものであるのに対し、本願発明は、金網無端帯の一側に冷却用の冷媒気体を送り込み、無端帯の網目を通し他側に吹き抜けさせるのであるから、少なくとも送り込み側には、冷媒気体用密封室がなければならないが、両者の冷却気体の供給、移送手段の差異は、単なる設計的事項の範囲を出ないものというべきである。

ところで、本願発明の出願前に、送風凍結法において、冷媒気体の温度が高いと被凍結物の乾燥が著しいことが知られており、第二引用例で取扱う冷却気体の温度範囲は、本願発明のそれに比べて高いのであるから、第二引用例の被冷却物を乾燥させる作用が本願発明の場合に比べて著しいとしても、それは、冷凍技術上当然のことであつて、冷却気体の移送手段自体にその原因があるのではない。両者は、冷凍と冷却とで取扱う温度範囲を異にするだけであつて、被冷却物が、これを載置搬送する網状無端帯を吹き抜ける冷却気体に接触して、急速に熱を奪われ冷却されるようにした手段であることにおいて同一である。したがつて、第二引用例のものでも、冷却気体の温度条件、その供給量及び時間などの条件を凍結加工に適するようにすれば、本願発明と同様の冷凍効果を奏しうることは、当業者であれば、容易に想到しうることである。

以上の点からすると、本願発明と第二引用例のものとの冷却作用及び冷媒気体に関し、単に冷却温度が相違するに過ぎないとした審決の判断には誤りがなく、原告のこの点に関する主張も採用できない。

3 プーリについて

(一) 前掲甲第一号証によると、本願発明の明細書中には、「本発明の主要点は、箇体を冷凍室内において運搬すべきコンベヤを金網帯を主体として構成した点に存する。これに対応してプーリも柔軟帯を外周に捲装したものを用いる。」との記載があることが認められ、争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明は、「プーリの表面には柔軟帯を捲装して」との構成を要件としているから、本願発明の搬送機構は、金網無端帯と柔軟帯捲装プーリとの組合わせからなるものであり、その作用効果もこの組合わせの構成に起因するものに着目するのが相当である。

(二) 一方、右甲第一号証によると、本願発明の明細書には、「本発明は、金網を利用するものであつて、この網の利用の特色とするところは」とあつて、それ以下に説明された搬送機構の効果は、あたかも、金網無端帯のみによつて生ずるかのような記載になつている。すなわち、その効果を生ずる理由について、「金網は連結部が点接触又は線接触するだけであつて面接触しないから、連結部が凍結しても、プーリ外周に捲きつくだけの屈曲は容易であるし、凍結部分を離すのにも極めて小さいエネルギーで充分である。」旨説明するのみで、柔軟帯捲装プーリを施した結果がこの作用効果を奏するためにどのように有利であるかについての記載は全くない。このことからすると、出願人たる原告は、前記作用効果を金網無端帯と柔軟帯捲装プーリとの組合わせによつて生じたものとしてではなく、金網無端帯の特徴に注目したにとどまるものと考えざるをえない。

(三) 原告は、プーリに柔軟帯が捲装されることにより金網帯がこれに食い込み屈曲度が大きくなり、小さなエネルギーでコンベヤを駆動でき、また、金網及びプーリ表面の凍結物を破壊脱落させる作用効果がある旨主張する。しかし、右(二)にみたところからすると、コンベヤベルトの屈曲度が良好なのは網状無端帯を用いた点にあり、柔軟帯は、金網無端帯とプーリ外周との係合関係を密にして、両者の間に動力伝達をより効果的に行うようにしたものと解される。けだし、柔軟帯は、金網の目の間に入り込んで回るため、ベルトとプーリとの接触面の摩擦力を大にし、動力伝達の効率が向上する結果、両者の接触面積を狭めても、換言すれば、プーリの径をより小さくしても、コンベヤを駆動するために必要な動力は支障なくコンベヤベルトに伝達され、金網ベルトの屈曲度の良好さと相まつて、プーリの直径を小さくすることが可能だからである。また、コンベヤに付着した凍結物は、主としてプーリ外周にコンベヤベルトが巻付くときに破壊されるから、ベルトに付着した凍結物排除のために要する動力(エネルギー)は、柔軟帯の有無とは殆んど関係がないものと考えられる。そして、右柔軟帯が凍結物をコンベヤから排除するとしても、そのために前記動力を大幅に軽減するものとは解されない。

(四) 右に述べたところからすると、本願発明において、プーリの周囲に柔軟帯を捲装することは、摩擦力を増大させるのが主たる目的であると解すべきところ、前掲乙第二号証の一ないし三によれば、ベルトコンベヤにおいて、ベルトとプーリとの摩擦力を増大させるためにプーリ外側にゴム、綿ベルト、皮などを張ること、すなわち、柔軟帯を捲装することは、本願発明の出願前に、ベルトコンベヤの業界において周知の技術であつたことが認められる。

(五) そうしてみると、審決がプーリについてした判断には誤りがなく、この点についての原告の主張も採用できない。

4 総合的考察について

本願発明と第二引用例とを対比した場合の一致点及び相違点が被告主張のとおりであることは原告の自認するところであり、その相違点についてされた判断中原告が誤つているとした点については上来検討したとおりであつて、本願発明は、結局、全体としてみても、第一引用例、第二引用例及び周知の技術事項から当業者が容易に発明をすることができなかつたものとは認めえないから、原告のこの点についての主張も採用できない。

5 以上のとおりであつて、原告主張の取消事由は理由がなく、審決には原告主張の違法がない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

熱的に遮断した凍結室内に無端帯金網を運行せしめ、該室内の金網面に対する一側から冷媒気体を送り金網面を吹き抜けて反対側に出さしめ、無端帯金網を架する両プーリ表面には柔軟帯を捲装して成る箇体食品の急速冷凍装置

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